黒い家


はす向かいの一軒家は長い年月を経て、最早自然の一部であるかのように
風景に溶け込んでしまっていた。
夜になっても明かりは灯らず、家はひたすらに大きく丸い闇を内包する。
昼でもやたら猫の影が這いずり回り、そこは一種独特の不気味な塊と化していた。

にゃあご。

今夜もけたたましく猫が啼く。
それはいつも一匹から波紋のように回りの猫達に広がって いくのだ。
時々その声が赤ん坊の泣き声に聞こえて少し背筋が寒くなるが、私は結局
夜啼 きの中夢へ夢へとおちていく。


夢の中でも私はあの家に囚われ続ける。
暗くひっそりとした細い廊下にはたくさんの物が散乱し、
私は生き埋めにあっている。
四肢は全く動かせず、大量に堆積した埃のせいで、視界が何だか白く霞んで見える。

霞んで見える?

私はどうして気付けなかったのだろう。
“霞んで見えた”なんて、本気で思ったのだろうか?
そうではなく、私の瞳に埃が堆積しているのではないか。この硝子の義眼に。
いつのまにか私は人形になっていたのだ。


太陽も照らせない黒い家。
湿った植物の蔓に縛られた廃屋。
雨の音がどこからともなく聞こえ、私の胸にもぽとりと雫が落ちてきた。
その瞬間に私に は解ってしまった。
この家に自分が囚われ続ける理由が。

そうだ。




私とこの黒い家と、
どう区別するのだ?


何も違わないんじゃないか。






もう梅雨の季節になりますね。
ぐずついた御天気は嫌いですが、この時期の雨って少 し青臭く、切なくて好きです。
私はもう、何かの抜け殻なのかもしれません。


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