デンドロカカリヤ



むせ返る位に甘い匂いに包まれた小さな正方形の部屋に、私は
ぼんやりと横たわっていた。小さな窓から漏れる光を目指して、
鉢植えの植物たちはゆっくり腕を伸ばしていく。
もう何回夜が来て朝になったのか解らなくなってきた頃には、
狭い部屋は植物によってすっかり覆いつくされていた。

もう身体を動かすのをやめて随分たつ。
私の最早痺れて動かせない手足に、植物は柔らかな蔓を
まるで抱擁するかのように巻きつかせていた。
私は血液の流動すら聞き取れるような静寂の中、
そっとまどろむように目を閉じた。

私は今、植物へと変身を遂げているところだ。
何も殺さず、何も傷つけず、生きていられる真に清らかな存在。
ずっとずっと憧れていた。


遠い所から声がする。
呼ばれているのかもしれないが、もうあそこへは帰りたくなかった。
目的を見失った人々が当たり前のように生きている世界、
共喰いしていることにも気づかぬ者達の群れ。
機械的にすれ違う足音、未来は忘れられた・・・
あそこは完全に狂っている。

私はあの世界の法則に従いたくなかった。
そこにどんな軽症でもいいから、傷を負わせてやりたかった。
小さな、小さな、革命を起こそう。これが私の力の限り。

数学化された世界の悲鳴、どこまで響いてくれるだろうか。


私は今、進化する。
人間から別離したところに、特別があるのなら。

水と光で潤える、そういう存在に進化する。






部屋の掃除をしていたら発掘しました。
多分安部公房氏の短編『デンドロカカリヤ』の読後に書いたものだと思われます。
植物ってすごいと思いませんか?何も犠牲にせず、綺麗な花を咲かせて見せる。
コモン君は植物化したくなかったようですが、私は生まれ変わるなら薔薇か桜か人形
になりたいです。(人形は生きてないとかつっこみは入れないで下さい・・・)





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