美食家の夕べ



銀色のバケツを引っくり返し、小さな海月を水槽に流し入れる。
透明なその生物は、静止したままふわふわと浮遊した。

「死んでいるの?」

女の問いかけに男は

「生きているんじゃないか?」

と煮え切らない言葉を返した。


白い食器の上には
赤い酸味のあるソースが丸く広げられる。

上品に並べられたフォークとナイフが
これから始まる晩餐に期待をはせて鈍く輝いていた。


美食家の夕べ
“味”を知った舌を満足させる為
喰おうと思えば何でも喰えるさ
怠堕な食物連鎖


海月はただ静かにナイフを受け止め、柔らかいゼリーのようにそっと引き裂かれていく。
男と女が興味で身を乗り出すと、食卓はまるで実験台の様な趣を呈していった。
赤いソースに絡まりながら、それはフォークで口に運ばれていく。

一口、二口,三口・・・・

「もういいわ、お腹いっぱい。」


美食家の夕べ
白い皿に残飯の匂いが充満する
喰おうと思えば何でも喰えるさ
共喰いの倫理


<終わり>





「食べる」という行為は物凄くグロテスクで性的で本能的なものだと思います。
何も食べずに生きられたら、どんなに美しいだろう。


戻ル
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